
あらすじ
長年勤めた会社を50歳目前でリストラされた良郎。
同じリストラ対象の課長からの罠にはまる。
会社からはリストラに応じれば別会社を紹介すると言われていたが、その会社はいかがわしい人材派遣会社だった。
派遣会社の正社員ではなく、自分が派遣社員として、紹介された会社で働くという全く意図しないものだった。
派遣先はなかなか決まらない。決まった先は肉体労働だったり、市が回収するはずの古紙を盗むといったものばかり。
仕事が決まらず家にいると娘や近所から不審がられるからと普段と同じようにスーツを着て家を出ることを強要される。
居場所がない心苦しさ。
良郎はやがて心を壊していく。
良郎と同じ会社で派遣社員として働いていた女性も派遣切りにあい、失業していた。
彼女はファミレスでアルバイトをしていたが、以前からボランティアをしたりし、
興味を持っていた発展途上国から輸入するビジネスを起こしていた。
良郎はふと、どんぐりがたくさん落ちていることに気づく。
昔食べていたこと、これが食べられれば失業中の食費が助かる。
食べてみるといける。
いろいろな種類、食べ方があることを知る。
肉体的にはきついはずなのに、持病の腰痛も気にならなかった。
川で釣りをする人に声をかけ、いろいろな魚が生息していることを知る。
調理方法を実践し、魚釣り、調理に夢中になる。
満たされていた。
ただで仕入れた材料を使って弁当屋をやりたい。
良郎はすぐ行動に移す。
会社員時代に購入していたが店を閉めた弁当屋の設備を利用して弁当作りを開始した。
元居た職場にも営業をしたが酷い対応を受ける。
路上販売に切り替え少しづつ固定客がつく。
人との縁が仕事に繋がり人生が好転していく。
自分に酷い仕打ちをした人々はどうなったのか、
生きる上での強さとは何か。
ぜひ手に取っていただきたい。
自分がいいならそれでいいのではないか




本書の一つのメッセージだと思う。
良郎はリストラに会い、会社から騙され、自殺も考えた。
物語の最初は読んでいても正直酷かった。
人間のいやらしさを感じた。
ただ、どんぐり、野草、魚を自分で採るようになって人生が好転していく。
その期間、良郎はろくに就活をしていない。
多分、もう会社で働く気持ちはなかったと思う。
採集で満たされていたから。
会社ではなく、個人経営の弁当屋で働くという決断は
お金よりもやりがい、楽しさ、ストレスからの解放を優先してのことで、
多くの人には勇気が必要な決断だと思う。
現に、大学時代の友人が登場するが、心を病みながらも
退職する決断はできないと涙する。
無職の良郎にとって勇気は必要なかった。
やりたかった、ただそれだけ。
やりたいことに関して、物語の終盤娘との会話がある。
娘は予備校に通い文系の大学を受験予定だったが、美容師になりたいので
美容の専門学校に行きたいと告白する。
家族は反対する事なく了解をするが、本人がいいのならそれでいいということを示している。
周りは関係ないのだ。
本当の強さとは




作者あとがきにあるが、本書は生きる強さを表現している。
肉体的な強さではなく、どこに行っても生きていける逞しさ。
会社員はどうだろか。
できることは限られている。
組織から放り出されたときに人はどう在れるか。
良郎は同じくリストラ候補の直属の課長に騙されて会社を去る。
総務部長も子会社の人材会社の正社員と言いながら、就職先はただの派遣社員。しかも仕事を斡旋してくれない、違法労働。
彼らは報いを受けることになるが、現実ではそうはならないかもしれない。
彼らは弱さの象徴として描かれていると思う。
本書から得ることは多いと思う。
ぜひご覧ください。